Skream! Interview


ニューヨークのスリー・ピース・バンド、THE PSYCHIC PARAMOUNT。前身となるLADDIO BOLOCKOを経て結成され、実験的なノイズやインプロの手法と衝動的なライヴでカルト的な人気を誇る。前作から約5年、待望の新作『II』ではさらに その音楽性を推し進め、あの世界的音楽サイトPitchforkをして、8.2点の高評価。BATTLESがキュレーターを務める今冬の英国フェス “All Tomorrow’s Parties”にも参加、アーティストの中にもファンが多いという、そんな注目バンドの彼らが今回、メール・インタヴューに応じてくれた。


THE PSYCHIC PARAMOUNT : Drew St. Ivany (Gt)

INTERVIEWER : 中里 友

-Skream! 初登場なので、まずはどのように3人が出会い、どういう経 緯でバンドが生まれたのか教えてください。Ben ArmstrongとDrew St. Ivanyは以前、 “LED ZEPPELIN meets CAN”とも評されたLADDIO BOLOCKOというバンドを組んでいたということですが。


LADDIO BOLOCKOが2001年に解散して、翌年俺がフランスで暮らしていたときにTPPを結成したんだ。5日ほど練習して、フランスやイタリアをツアーした のさ。1stアルバムの『Gamelan Into the Mink Supernatural』に収録してあるそのときの楽曲は、敢えて危険を冒そうと自由度の高いギター・リフで作られているんだ。相当盛り上げた部分もあ るから、ところどころすごくワイルドだね。いろんなことがあってバンドは解散寸前だったけど、かろうじてツアーだけはやりとげたよ。1年くらい後にアメリ カに戻って、ニューヨークでおれたちはJeff Conawayとプレイし始めて、それからはずっと同じラインナップだよ。

-今作『Ⅱ』は前作『Gamelan Into The Mink Supernatural』と地続きでいながら、音は立体化し、さらにスケールアップした印象がありました。サウンドに関して、一貫したコンセプトはあったのですか?

俺たちが目指したのはエキサイティングなロック・ミュージックで、人々を夢中にさせる幻想的な音だ。もともと俺らは すごくラウドだし、それがうまくいくとパワフルかつエキサイティングに場の空気を燃え上がらすことができるのさ。その盛り上がりをレコーディングに反映さ せることが目標だったんだ。ヴォーカルがいないから、言葉とか歌詞なんて要らないと思えるほどのサウンドを作らなきゃと常に思っているよ。俺たちにとって は理に適った方法でも、このコンセプトはなぜか今日の音楽では普通じゃないみたいだけどね。

Photo : Josh Sisk

-「SP」、「DDB」、「N5」「N6」など記号のような曲名は何か意図があるのでしょうか。

それぞれの楽曲を区別するイニシャルに過ぎないよ。人の名前みたいなもので特に意味はない。単なる識別さ。

-前作から約5年間、ライヴ盤や再発盤を挟んではいましたが、ここまでリリースに時間が掛かったのはなぜでしょうか?

この質問には満足してもらえるような答えは絶対出てこないな。この作品に限って、おれたちの楽曲制作のプロセスは ゆっくりで、オーガニックな感じに見えるだろう。最初に手を付けたのは2008年で、そのときにマテリアルの一部を録音し、セッションは捨ててね。その後 1年くらい経って、今度は違うスタジオで同じ曲を数曲、新曲と併せてレコーディングし直したんだ。全部で12日か13日スタジオにいたんじゃないかな。ス イスの画家、Paul Kleeの“芸術に完成はない。途中で手を止めるだけだ”という言葉を知っているかい?つまりマテリアルの持つ可能性をおれたちは長いこと探究し続けてい て、そしてある地点でその実験が終わったということだよ。

-楽曲はジャムやインプロヴィゼーションから生まれるのでしょうか。

ほとんどがそうだね。気に入ったアイデアを出し合って、その上に作り上げていくんだ。最初のインプロヴィゼーションをちゃんと再現出来ないこともあって、そんなときは曲がどんどん違う形に変化し、新たなものが生まれていくよ。

-TPPの音楽はとてもストイックで混沌としていながら、少しの儚さを感じます。また、荒涼として無機質 でいながら、気持ちを揺さぶる熱いものがあります。ある種の美意識のもと、ストイックに音楽活動をしている印象があるのですが、3人共通のコンセンサスが あるとしたら何でしょう?
この観点は好きだな。すごくロマンチックだよ。おれたちはみんなアメリカの中西部で育ち、高校を卒業してまもなく ニューヨークへやってきたんだ。その共通項だけでも実際大きな意味を持っているよ。自分をよく知ってるヤツに己のことを説明するヤツはいないだろう?でも 俺たちは未だに言い争うことがあるんだ。それは例えば、Jeffの好きじゃないアーティストの中にも、俺とBenは気に入っている曲がある、みたいなこと さ。だから俺らの音楽にそういう口出しはナシってことは決めたんだ。

-音楽的にこだわり続けているものは何でしょう?

まずはすごくハイな気分になって、それからプレイするってことだね。



-ジャケットのフォトやフィルムの、一貫してモノクロなアート・ワークにはあなた方の音世界を非常によく表していると思いますが、実際にそういう狙いはありますか?

ヴィジュアル的な部分はいつも最後の仕事で、それがサウンドの雰囲気に近づいているならすごく満足だよ。スモークの 中でバックライトに照らされて演奏するのが好きで、この音楽にはそれが最適のセッティングだと思っているんだ。影と照明のあたる部分が大事で、そこでサウ ンドが生きるんだ。

-灰野啓二やDON CABALLERO、LIGHTNING BOLTやSteve Albiniなどの影響を感じますが、実際どのようなものから影響を受けていますか?音楽以外でも構いません。

ここに挙げられたアーティストはみんな好きだけど、特に誰かに影響を受けたということはないよ。Steve Albiniは別だけどね。俺たちが彼のレコードを聴いてきたように、1990年代初頭はどのバンドも彼のサウンドから影響を受けていたよ。俺たちが曲作 りで自身のサウンドやスタイルを見出したのはもう随分前のことで、今は己のスタイルの可能性を探索することにフォーカスを当てているんだ。その間ずっとさ まざまアートにインスパイアされてきたし、それを要約するのは不可能だよ。変と思うだろうけど、俺たちのなかにあるクラシック・ロックは、伝統的なフォー ク音楽に最も近いものなんだ。それを土台にノイズからフリージャズ、モダン・クラシカル、アフリカン、エレクトロニックといった音楽の要素を導入している のさ。最後には同じ曲のなかでBo DiddleyからKRAFTWERKまで描くことになるかもな。結局は本当に一体感を持てるものと繋がるんだろうし、そうじゃなければ放棄するよ。

-TPPの音楽をご自身の表現で定義づけるとしたら、何になりますか?

ロック。へヴィとかインストって言うこともできるかな。

-注目しているアーティストやシーンがあれば教えて下さい。

今注目しているのは、PANICSVILLE、EARTHLESS、TERMINAL LOVERS、Steve Moore、ALUK TODOLO、MELVINS、BOREDOMS、だね。

-12月にはBATTLESキュレートで、イギリスで開催されるフェスティヴァル“All Tomorrow's Parties(ATP)”に出演されますね。TPPのサウンドは是非ともライヴで体験したいと感じさせますが、どのようなステージングを目指していますか?

フェスでのギグはいつも少し慌ただしくて、ちゃんとコントロールできるとは限らないな。だから俺たちは俺たちのするべきことをして、思い切りサウンドを押し出すだけだね。心の底から遊んでほしいよ!